想いあう速度なんて




桜がそこかしこに彩りを添え、春爛漫の今日この頃。 陽ざしでぽかぽかしている部屋のベッドは今最高のお昼寝スポットと化していた。 そんな絶好のタイミングを逃すことなく、私はふかふかのベッドの感触を楽しみながらごろ寝を決め込む訳である。 晴れ渡った青空が少し眩しい気がするが、のんびり流れる雲を見ているだけで眠気に襲われそうだ。 あ、あの雲マシュマロみたいで美味しそう。けれど脈絡もなく浮かんだ暢気な感想は嵐のような足音とドアを突き破らんばかりの誰かに突如としてぶち壊されることになる。



ーっ!」

「あーはいはい、どうしたの」



そこに立っていたのは紛れもなく幼馴染兼1年時のクラスメイト、遠山金太郎であった。 四天宝寺テニス部のスーパールーキーとも噂される金ちゃんはとにかく元気ではつらつとしているが、先輩曰くは「ゴンタクレ」である。 当の彼と言えばトレードマークになっている豹柄のタンクトップと半ズボン姿でお日様にも負けない笑顔でこちらを見ている。 いくら暖かくなってきたとはいえ、さすがにこの時期にその格好はないんじゃないだろうか。 突っ込もうかと口を開きかけるも、結局言っても聞かないだろうし(何せ豹柄は彼のお気に入りなのだ)せいぜいちょっとした口論になるのがオチだろうと推測した私はあえて何も言わないことにした。



「で、どうしたの?」

「ん、テニスしようや!」

「私そんなに運動できないって知ってるでしょ。」

「知っとるけど少しだけならええやろ?」

「私なんかが金ちゃんとテニスしたら怪我しちゃうよ。」

「手加減したるから、なっ!」

「それじゃ金ちゃん楽しくないじゃない・・・」



なんだかやけに食い下がってくる金ちゃん。いつもはテニスに誘われることなんてないというのに一体どうしたんだろうか。 そもそも金ちゃんは強いプレイヤーと試合することを楽しみにしているため、一般的なプレイヤーなんてまず興味を持たない。 昨年はコシマエとかいう同い年のルーキーにえらくご執心で、寝ても覚めてもコシマエの話しか出てこなかったし。 そのコシマエくんとやらは相当実力のあるルーキーなのだろう。それにしても金ちゃんと同じくらいというのは末恐ろしいものだ。試合をちょくちょく見に行っている私は金ちゃんの実力もある程度把握しているつもりなのだが。 ともかくそんな金ちゃんが私のようなテニスをやったこともない素人に声をかけるなんてありえないのだ。



「ええー!テニスしようやー!」

「今日は随分とこだわるみたいだけどどうしたの?」

「・・・な、なんでもあらへんわ。気分や、気分!」

「本当に?」



何かあるんじゃないかとじっと金ちゃんの顔を見ればすぐに視線を外されてしまう。 隠していることがあるのは確かみたいだけど、彼のことだから悪いことではないのだろう。 しかもこの調子だと最終的にはだだをこねられて押し切られるパターンだ。よく覚えがある。仕方ないか。 しかし折角のうららかなお昼寝日和なのに勿体ないなと内心ぼやいてみても文句は言われないと思いたい。 4月早々こんな調子だ、今年のテニス部は大丈夫なのだろうか・・・。



「(・・・4月早々?)」



そのフレーズが妙に引っ掛かり、再び思考に耽る。
確かに金ちゃんの強引なところは今に始まったことじゃないが、こんなタイミングで・・・。
そこまで考えてはっと思い当たった。そういえばそうだっけ。



「金ちゃん。」

「なんや?」



勿論準備はしていたけれど、忘れてしまったら本末転倒。まあ思い出せただけでもよしとする。
私ってこんなに忘れっぽかったっけ?どこかの誰かさんに似てしまったのだろうか。



「お誕生日、おめでとう。」



だからテニスはまた今度ね、とベット脇のローテーブルから取り出した包みを金ちゃんに差し出す。
要は自分の誕生日に自分の大好きなことをしたかったのだと思う。金ちゃんらしいといえば金ちゃんらしい。

きょとん、としたその顔が昔から変わってなくて、少し笑いを零せばなんで笑うん!と若干拗ねたような声が返ってきた。 くるくる変わる表情が可愛くて、私にとって金ちゃんは同い年なのに弟みたいな存在だった。 勿論何もかもが変わらない訳ではない。例えば試合中の真剣な眼差しだとか、いつの間にか逞しくなった背中だとか。 和むだけだったはずなのに、不意にどきっとするくらい格好良い瞬間があって、金ちゃんも成長したのだと実感する。 なんだかお母さんみたいだとは言わないで欲しい。なんとなく自分でも自覚している。

そんな金ちゃんは拗ねた表情から一転して破顔し、あの太陽みたいな笑顔で言う。



「おおきにな、!」



ああ、やっぱりこの笑顔には敵いそうにない。





Teni-tan 4 Seasons Plus+さまに提出!
2012.4.16



ばらばらでいい

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